文科省に意見書提出しました

先ほど、文部科学省に下記の意見書を提出しました。

文部科学大臣    川端達夫 殿
文部科学副大臣   中川正春 殿
文部科学大臣政務官 後藤 斎 殿



平成21年11月27日


行政刷新会議による事業仕分け結果に対する意見書


事業番号3-21「競争的資金(若手研究育成)」
事業番号3-19「独立行政法人海洋研究開発機構(深海地球ドリリング計画推進、
地球内部ダイナミクス研究)」に関して


地球科学分野の若手研究者有志



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<意見書主旨>
我が国の地球科学研究が世界をリードするためには、「科学研究費(若手(S)
(A)(B))」「特別研究員事業」などによって研究の多様性を保つ一方で、「深
海地球ドリリング計画推進」「地球内部ダイナミクス研究」などの大規模プロジェ
クト研究に重点投資し、これらを車の両輪として推進することが必要不可欠であ
り、事業仕分け結果に基づくこれら諸事業の縮減に強く反対します。

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 日頃より私たちの研究活動に対するご理解・ご支援をいただき有り難うござい
ます。


 私たちは、地球科学のさまざまな分野を専門とする若手研究者(学位取得後6
年以内〜博士課程在学中)です。このたびの行政刷新会議による事業仕分け作業
において結論づけられた当該事業の縮減方針は、我が国の地球科学研究に大きな
損害を与え、将来的に滅ぼしかねないものであると深く憂慮し、連名で意見書を
提出する次第です。


 そもそも、鉱産資源に乏しく、食糧の完全自給も困難な我が国においては、人
材育成に加え、科学技術、文化・芸術などのソフトパワーの重視を国家戦略の基
幹に据えるべきことは明らかであり、この観点から科学技術創造立国という崇高
な理念が語られてきたものと理解しています。私たち若手研究者も、基礎科学研
究こそが真に国を豊かにするものと信じ、誇りを持って研究に邁進してきました。
しかるに現政権では、科学技術行政に関する確固たる方向性が示されぬままに、
不明瞭な選定基準のもと科学技術関連事業の大部分が仕分け対象になり、1時間
という短い時間の議論で見直し・縮減を言い渡されるということが相次ぎました。
これらの過程は、費用対効果の定量化が困難な先端科学技術は世の役に立たず無
駄である、というメッセージを現政権が発したかのように見え、私たち若手研究
者は皆、深い失望と強い憤りを感じています。


 中緯度の大陸東岸かつプレート沈み込み帯に位置する我が国では、台風や集中
豪雨などの気象災害や、地震・火山などの地質災害が頻発します。私たちの住む
国土を理解し、災害対策や資源戦略を考える上の実学として、地球科学は極めて
重要な学問です。さらに、地球・生命の成り立ちを理解し、人類知に貢献し全世
界の人々に夢を与えるという点、気候変動のメカニズムを理解し未来予測に役立
てるという点の双方においても地球科学は大きな役割を果たします。これらの重
要性に裏打ちされた我が国の地球科学研究は、世界的にもトップレベルに位置し
ており、分野によっては諸外国を大きくリードしています。
 今回の事業仕分けにより縮減・見直しの対象となった、事業番号3-21「競争的
資金(若手研究育成)」、および事業番号3-19「独立行政法人海洋研究開発機構
(深海地球ドリリング計画推進、地球内部ダイナミクス研究)」は、いずれも我
が国の地球科学研究において基幹をなす事業であり、私たち若手研究者の雇用や
研究費の大部分もこれらによって担われています。仕分け結果に基づくこれらの
事業の安易な縮減は、ポスドクの大量失職と人材の枯渇、研究分野の大幅な衰退、
科学技術コミュニティにおける国際的な信用の喪失に直結するものであり、ひい
ては我が国の国力低下を招くものです。国の将来に大きな損害を与えうるような
判断が拙速になされることのないよう、強く要望する次第です。以下、事業仕分
け議論における問題点を指摘いたします。



1)事業番号3-21「競争的資金(若手研究育成)」のうち、特に3-21-(2)「 科
学研究費補助金(若手研究 (S) (A) (B)、特別研究員奨励費)」と3-21-(3)「
特別研究員事業」について


 事業仕分けにおいては、特にポスドク(学位取得後の非安定雇用研究者)の問
題に多くの時間を割いて議論がなされており、博士号取得者をいかに民間に流す
かという話題が強調されていました。ここでは、成果を上げる研究者としてポス
ドクを捉える視点が完全に欠如しています。大部分のポスドクは活発に研究を行っ
ており、論文発表や学会発表において常勤研究者に遜色ない活動を行う者も数多
く見られます。そんな彼らに対する給与や研究費の支給は、博士取得者のセーフ
ティーネットや雇用対策、ましてや生活保護などではなく、正当な対価です。も
ちろん、研究者のキャリアパスという観点において、大学・研究所も含めた抜本
的な制度改革はなされるべきであると考えますが、それは慎重な検討と充分な移
行期間をもって行うべき事柄です。


 ポスドクには、プロジェクトにより雇用される者と、日本学術振興会特別研究
員PD(学振PD)とがあります。プロジェクト雇用のポスドクは、テーマに沿った
研究が求められ、そのプロジェクト推進の原動力として貢献する一方、学振PDは、
採択率約10%という厳格な審査のもと、テーマ設定や問題解決に高い自由度が与
えられ、若手の自由で柔軟な発想を活かすことができます。学振PDに代表される
特別研究員事業の縮減は、我が国の科学研究において、多様なバックグラウンド
を持つ優秀な人材の雇用枠が減少することを意味し、我が国の基礎研究の衰退に
つながります。雇用と同様、研究費についても、キャリアについて間もない若手
研究者を対象とした科学研究費補助金(若手研究 (S) (A) (B)・特別研究員奨励
費)は、若手研究者の自由な発想に基づく研究の多様性と萌芽性を維持するのに
極めて重要であり、研究費の整理統合という名のもとの縮減は、長期的には我が
国の基礎研究を支える人材の育成に深刻な悪影響を及ぼすものと考えられます。



2)事業番号3-19「独立行政法人海洋研究開発機構(深海地球ドリリング計画推
進、地球内部ダイナミクス研究)」について


 独立行政法人海洋研究開発機構に関わる事業仕分けはいずれも、地球科学分野
で日本が世界をリードしている研究の事業費に対して行われました。独立行政法
人の見直しなら、特定の研究事業ではなく経営側を見直すべきです。仕分けの議
論においては、天下りの役員が2名いるということが強調されていましたが、そ
れによって研究部門が縮減対象となることはピントのずれた議論と言わざるを得
ません。


「深海地球ドリリング計画推進」

 本計画は日本が世界をリードしている数少ない基礎科学研究分野のうちの1つ
であり、引き続き重点投資してゆくべき大型プロジェクトです。本計画は統合国
際深海掘削計画(IODP)において、世界24か国の研究者のボトムアップによる国
際的な合意により推進が期待されているものであり、安易な縮減は、我が国のみ
ならず世界の海洋科学・地球科学コミュニティに打撃を与え、国際的な信義に反
します。事業仕分けの席上なされていた、現状で1600mしか掘られていないのに
7000m掘ることができるのか、という議論は、最大掘削深度と総掘削量とを混同
した単純な理解不足に基づくものであり、それにより縮減の対象となることに疑
問を抱かざるを得ません。


「地球内部ダイナミクス研究」

 海洋研究開発機構JAMSTEC)のうち地球内部ダイナミクス領域(IFREE)は研
究部門の基幹として多くの業績を上げ、世界的に高い評価を受けています。それ
にもかかわらず今回、JAMSTEC本体でなくIFREEのみが仕分けの対象に選定された
ことが非常に不可解です。事業仕分けにおいては10分に満たない言及のもと、来
年度の半額ないし全額縮減の裁定がなされ、競争的資金で研究すべきとのコメン
トが複数挙げられました。しかし、事業費に計上されている13億円の予算のうち、
約6割の7億5千万円は、実際には任期付き研究者の人件費です。来年度の予算計
上見送り〜半額縮減という評価結果は、研究予算の全額削減に加え人件費も大幅
な削減を行うということを意味します。これはすなわち、IFREEの研究機能停止
と、そこに所属する任期付き研究者の解雇とを意味し、国際的な名声を得ている
地球科学の一大拠点を我が国は失うことになります。仕分け人のコメントの中に
は、7000 m掘削できてから研究すればよい、というものがありましたが、掘削後
に研究を行う優秀な人材の大部分を失ってしまっては、我が国がこの分野の研究
で世界をリードし続けることは困難です。




 以上、仕分け議論における問題点を指摘しました。文部科学省の担当の方はよ
く説明しておられましたが、仕分け人の質問と答えが噛み合っていない、内容的
にも不正確な点がある、などの不備がいくつも見られました。上に挙げたいずれ
の事業も日本の科学を支え、国の礎となる重要なものだと私たちは確信しており
ます。担当者におかれましては、誇りと自信を持ってプレゼンテーションに臨ん
でいただきたく存じます。来年度の予算編成においてこれらの事業の重要性が認
識され、要求通りの予算が計上されることを一同期待しています。



*本意見書は地球科学分野の若手研究者有志が作成したものであり、一切の組織・団体と関係ありません。

引き続き、民主党内閣府行政刷新会議等にもお送りしていきたいと思います。