「歴史と外交(東郷和彦著)」/「惑星(マゼール指揮フランス国立管)」

夏なので読んでみました。

東郷茂徳元外相を祖父にもつ元外交官・東郷和彦氏の近著。北方領土問題の頓挫で外務省を追われてから6年間の在外研究の結果をまとめたもの。靖国慰安婦、韓国、台湾独立、原爆、東京裁判という、日本のいわゆる歴史認識の核心に切り込んでいます。文章が流麗で、たいへん読みやすくおもしろい。
まえがきで筆者が述べているように、確定解は書かれておらず、現時点での形成途中の思索のとりまとめということです。そのためか、やや消化不良の感も否めません。官僚的すぎるかもしれません。しかし、日本国内の右から左までの意見、そして相手国の世論、教育、文化や歴史が大変よく整理されており、優れたレビューであることは間違いないでしょう。それをふまえた解決に向けての方向性も大まかには示されています。
もっとも重視すべきは、現実的な意味での国益。そのために自国と相手国の歴史と論理を俯瞰し、解決点を探る。この姿勢こそが本書から学ぶべきものだと思います。それは、国と国の問題に限ったことではないでしょう。



最近聴いてよかったクラシック。

組曲「惑星」ホルスト作曲。火星・金星・水星・木星土星天王星海王星の7曲からなる。「木星」中間部のメロディは平原綾香の歌で一躍有名になりました。
この曲は、カラヤン指揮ベルリンフィルの演奏が有名です(が、私はあんまり好きじゃない)。今までは、奇をてらわない堅実で重厚な演奏のデイヴィス指揮ベルリンフィル盤を愛聴していたものの、マゼール指揮フランス国立管の演奏を聴いて一度で気に入りました。録音も明瞭でとくに木管楽器の繊細な音をよく拾っており、大変結構です。
「火星」冒頭のおどろおどろしい雰囲気、終末部の止まりそうなほどのスローテンポとティンパニの強打。「金星」は一転して穏やかな演奏、「水星」も楽しい。「木星」は前半飛ばし気味で、中盤は朗々と歌い上げ、終盤は一度加速して最後は一気に減速。「土星」以後もダレない。とにかく大迫力、メリハリのある演奏。
マゼールという人は、天才肌というか凝り性というか、結構奇妙な演奏をすることも多く、いつもバランスがとれるかとれないかの瀬戸際にいる印象があるのですが、これは彼の工夫がうまく開花した非常によい演奏でした。